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岡山地方裁判所 昭和49年(ワ)666号 判決 1983年3月09日

原告

斉藤稔

ほか一名

被告

並川春一

ほか二名

主文

一  被告らは、各自、原告斉藤稔に対し金二四一、二九六円、および内金二一九、二九六円に対する昭和四九年一一月五日より、内金二二、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告住吉運送株式会社に対し金九〇五、五二三円、および内金八二二、五二三円に対する昭和四九年一一月九日より、内金八三、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日より、各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項について、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

1  被告らは、各自、

(一) 原告斉藤稔に対し金二九五、一九六円、および内金二六五、一九六円に対する昭和四九年一一月五日より、内金三〇、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで、各年五分の割合による金員を、

(二) 原告住吉運送株式会社(以下、原告会社という。)に対し金一、五四一、二四八円、および内金一、二九一、二四八円に対する昭和四九年一一月五日より、内金二五〇、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで、各年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  原告らの請求原因

1  交通事故(以下、本件事故という。)の発生

(一) 日時 昭和四八年七月一日午前八時四〇分頃

(二) 場所 兵庫県赤穂市西有年一、四〇九番地先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(三11か1994号)

運転者 被告 並川春一

(四) 被害車両 普通貨物自動車(岡11か441号)

運転者 原告 斉藤稔

(五) 態様 原告斉藤が被害車両を運転して時速約五七キロメートルで西進中、折柄対向して時速約九〇キロメートルで東進してきた加害車両が急に道路中央線を越えて被害車両に正面衝突し、そのため被害車両の右前輪が即時にパンクし、かつ四五ないし五〇度右方向に回転するとともに、エアーパイプと油圧系統の破損等によりハンドル操作不能となつて道路中央線を越えて対向車線に進出し、加害車両の後続車である訴外小林正之運転の車両に衝突した。

(六) 結果 原告斉藤の傷害 腹部打撲

物損 被害車両の大破

2  帰責事由

(一) 被告並川は、前方不注視、通行区分違反、速度違反等の過失により本件事故を起したもので、不法行為の責任がある。

(二) 被告会社は、加害車両の所有者で、これを自己の運行の用に供していたものであり、かつ、従業員被告並川をその事業の執行のため運転させていたときに本件事故が発生しているもので、自賠法三条ないし民法七一五条一項の責任がある。

(三) 被告上村は、被告会社の代表者であり、被告並川の選任監督を担当していたのであるから、民法七一五条二項の責任がある。

3  損害

(一) 原告斉藤の損害

(1) 治療費

(イ) 赤穂市民病院 五一、一八八円

(ロ) 富岡外科医院 一二、二八〇円

(2) 入院雑費 五一、〇〇〇円

但、入院一七日間につき一日三〇〇円の割合による。

(3) 逸失利益 二六一、八九六円

原告斉藤は、一か月平均一三〇、九四八円の収入を得ていたが、本件事故により昭和四八年七月一日より同年八月三一日までの二か月間休業し、これにより二六一、八九六円の損害を蒙つた。

(4) 慰藉料 二〇〇、〇〇〇円

原告斉藤は、前記傷害により入院一七日、通院四五日間の治療をうけたが、その間の慰藉料は二〇〇、〇〇〇円に相当する。

(5) 弁護士費用 三〇、〇〇〇円

(二) 原告会社の損害

(1) 車両損害 四八二、八〇〇円

被告会社は、被害車両の修理が不可能なためこれを廃車としたが、この事故前の時価は四一〇、〇〇〇円であるところ、事故前のエンジンのせ替工事費一九四、六〇〇円、車検整備費一〇一、〇〇〇円の二分の一は無為に帰したので、合計五五七、八〇〇円の損害が生じるところ、廃車による売却代金七〇、〇〇〇円を控除し、少くとも四八二、八〇〇円の損害になる。

(2) 営業損害 六九八、五九八円

本件事故により、被害車両の代替車を購入するまでの五一日間は被害車両の稼働によつて受けられる営業収入を失つた。右被害車両の一日当の平均運輸収入(人件費、油代、諸経費を控除した純利益)は、一三、六九八円であるので、合計六九八、五九八円の損害が生じた。

(3) 被害車両引上げ等の費用 一〇四、八五〇円

(イ) タンク積替作業、車両引上げおよび牽引搬入費用 七〇、〇〇〇円

(ロ) 代運搬費用 三〇、〇〇〇円

(ハ) 整地人夫賃 四、八五〇円

右合計一〇四、八五〇円。

(4) 弁護士費用 二五〇、〇〇〇円

4  損益相殺

原告斉藤は、自賠責保険金より三一一、一六八円の支払を受けたので、前記3、(一)、(1)ないし(5)の残損害額は二九五、一九六円である。

5  よつて、原告斉藤は、被告ら各自に対し、右損害金残金二九五、一九六円、およびこれより弁護士費用を控除した内金二六五、一九六円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四九年一一月五日より、弁護士費用の損害金三〇、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、原告会社は、被告ら各自に対し右損害金合計金一、五四一、二四八円、およびこれより弁護士費用を控除した内金一、二九一、二四八円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四九年一一月五日より、弁護士費用の損害金二五〇、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因事実に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実中、(一)、(二)の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2、(一)の事実は否認する。同2、(二)の事実中、被告会社が加害車両の所有者であり、これを自己の運行の用に供していたこと、従業員被告並川をその事業の執行のため運転させていたとき本件事故が発生していることは認めるが、その余は争う。同2、(三)の事実中、被告上村が被告会社の代表者であることは認めるが、その余は否認する。

3  同3の各事実はいずれも争う。

4  同4の事実は認める。

5  同5項は争う。

三  被告らの抗弁

1  免責

(一) 本件事故は、原告斉藤の前方不注視によつて対向車線に進出したため発生したもので、原告斉藤の一方的過失によるものであつて被告並川には過失がなく、かつ加害車両には構造上の欠陥および機能上の障害はなかつたのであるから、被告会社が自賠法三条の責任を負うことはない。

(二) 被告会社は、運行管理者をおき、同管理者において被用者の選任および事業の監督につき相当の注意を尽していたものであるから、被告会社が民法七一五条一項の責任を負うことはない。

(三) 仮に被告上村が被告会社に代つて事業を監督する者にあたるとしても、運行管理者をおいて十分な注意を尽していたものであるから、被告上村が民法七一五条二項の責任を負うことはない。

2  過失相殺

仮に被告らに賠償責任が認められるとしても、本件事故は、原告斉藤が対向車線に進入した後自車線内に戻ろうとした際に、そのタイミングを誤つて加害車両に衝突させているもので、被告並川に何らかの過失が認められるとしても、原告斉藤が自ら危険を招く行為をなさず、かつ僅かの避譲措置を構ずればさけ得たもので、その安全運転義務違反の過失は重大である。これにより、相当の過失相殺がなされるべきである。

3  相殺

(一)(1) 被告並川は、本件事故により右前腕骨開放性骨折、右前腕挫滅創、頸部捻挫の傷害を負い、昭和四八年七月一日より同月一七日まで赤穂市民病院に、同日より同月三一日まで上久保病院にそれぞれ入院し、その後同年一〇月三一日まで通院加療した。

(2) 被告並川は、当時月平均一八五、〇〇〇円の収入を得ていたが、右期間中の休業により、七四〇、〇〇〇円の損害を生じた。

(3) また被告並川は、慰藉料五〇〇、〇〇〇円の損害が生じた。

(二) 被告会社は、本件事故により次のとおり損害を蒙つた。

(1) 車両損害 二、〇九一、三〇〇円

(2) 営業損害 四、五〇〇、〇〇〇円

加害車両の一日当りの営業収益は平均五〇、〇〇〇円であるところ、代替新車を購入するまでの九〇日間は右収益を得られなかつたので、四、五〇〇、〇〇〇円の損害が生じた。

(三) 本件事故は、原告斉藤の過失によつて発生したものであり、原告会社は、本件被害車両を所有し、その事業の執行のため被用者である原告に運転をさせていたのであるから、自賠法三条ないし民法七一五条一項の責任があり、原告両名は、右被告両名の損害について、連帯して賠償義務がある。

(四) 被告並川および被告会社は、原告らに対し、右損害賠償請求権をもつて本訴請求債権と対等額において相殺する旨、昭和五七年一一月二九日本訴口頭弁論期日において意思表示した。

四  抗弁事実に対する原告らの認否

抗弁事実はいずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和四八年七月一日午前八時四〇分頃、兵庫県赤穂市西有年一、四〇九番地先路上において、本件事故が発生したことについては当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証、本件事故当時の事故現場の写真であることについて争いのない甲第一三号証の一ないし二五、成立に争いのない甲第一四号証、原本の存在とその成立に争いのない甲第一九号証の一、二、成立に争いのない乙第二ないし六号証、同第一二号証の一、二、同第一四号証、同第一七号証、同第一九号証の一ないし三、同第二〇号証の三、同第二四、二五号証、同第二六号証の一ないし三、同第二九号証の一、二、同第三〇号証の一、二、同第三一号証の一ないし三、同第三二、三三号証、および鑑定人江守一郎の鑑定の結果を総合すると、次の事実が認められる。成立に争いのない乙第一五、一六号証、同二一号証の二、同第三四号証の三、乙第三五号証、証人滝野肇の証言、被告並川春一本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照し、とうてい措信できない。

1  原告斉藤は、前記日時頃、前記場所において、請求原因1、(四)記載の被害車両を運転し、時速約五〇キロメートルの速度で西進中、おりから対向東進してきた被告並川運転の請求原因1、(三)記載の加害車両に衝突された。

2  右事故現場は、アスフアルト舗装の平坦な直線道路で、中央線および両端の外側線により東行ならびに西行の二車線に区分され、駐車禁止とされているほかは、特段の交通規制がない。

3  被告並川は、加害車両を運転し、時速約七五キロメートルの速度で東進していたものであるが、左前方の小路との交差点に気をとられ、慢然と自車を中央線よりに寄せようとしたため自車の一部を中央線を越えて約〇・六メートル余り対向車線に進出させ、おりから西行車線ほぼ中央を走行してきた被害車両の右前側部に自車右前部を衝突させた。

4  原告斉藤は、事故前、相対距離約三ないし四〇〇メートル前方に対向してくる被告並川の加害車両を発見していたが、衝突地点の約二二メートル手前で中央線を越えて自己車線に侵入してくる加害車両を認めたが、両車の相対接近速度と事態を認知するに要する時間、制動措置をとるために必要な時間、制動距離との対比において、原告斉藤には回避の措置を取ることは不可能であつた。

5  右衝突後、被害車両は、衝突の衝撃により右前輪をパンクさせ、かつ右方向に大きく回転し、エアパイプと油圧系統を破損させて操作不能となり、道路中央線を越えて対向車線に進出し、加害車両の後続車である訴外小林正之運転の車両に衝突して大破した。

三  責任

1  右認定事実によれば、被告並川は、自動車運転者として安全な操行に注意を尽すべき義務があるのに、法定速度を越える時速約七五キロメートルの速度で進行中、左前方の小路との交差点に気をとられ、慢然と自車を中央線に寄せようとしたため、これを対向車線に進出させ、もつて本件事故を発生させたものであるから、その過失は明らかであり、民法七〇九条に基づく不法行為責任は免れない。

2(一)  被告会社が加害車両の所有者であり、これを自己の運行の用に供していたこと、本件事故は被告会社の従業員である被告並川をその事業の執行のため運転に従事させていた際に発生したものであること、ならびに被告上村が被告会社の代表者であること、以上の各事実については当事者間に争いがない。

(二)  さらに、成立に争いのない乙第一三、一四号証、証人滝野肇の証言によれば、被告上村は、運送業を営む被告会社の代表者として、昭和四八年五月一日に被告並川を雇入れ、運転業務に従事させていたこと、被告上村は、本件事故当時、被告会社の車両の運行業務につき、自ら運行管理者の地位に就き、娘婿である訴外滝野肇を配車係として運行管理の事務を補助させていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  右各事実によれば、請求原因2、(二)、(三)の各事実は明らかである。

3  そこで、被告らの免責の各抗弁について判断する。

(一)  抗弁1、(一)の主張については、前示のとおり、被告並川の過失が明らかであるから、その余の点を判断するまでもなく、採用することができない。

(二)  さらに抗弁1、(二)および(三)について検討するに、成立に争いのない乙第一三、一四号証、被告並川春一本人尋問の結果によれば、被告並川は、昭和三九年には大型車の運転免許を取得し、以来、運送会社における貨物車の運転手として稼働し、昭和四八年五月一日に三重県名張市の被告会社に就職し、大型貨物自動車の運転に従事してきたこと、被告並川は、事故前の昭和四八年六月二六、七日には名張市より岡山市への往復勤務に従事し、翌二八日には日中に名張、名古屋間の往復勤務をなしたうえ、同日午後七時頃大分市に向けて出発し、同月三〇日午前一時ごろ目的地の大分市にある東洋サツシ大分店に到着したこと、そして被告並川は、午前七時三〇分頃まで自車の運転台で仮眠し、荷おろしの終つた午前九時過ぎには大分を出発し、門司の日立金属に立ち寄つて積荷をし、午後四時一五分頃門司を出発し、帰路についたこと、その後被告並川は、午後五時すぎ燃料の補給をなし、午後六時ごろから休憩に入り、食事、入浴をすませ、午後一〇時から再び走行を開始し、国道二号線を深夜走行を続け、広島市で四〇分間位休憩して軽食をとり、さらに走行を続け、早朝岡山市で果物を買い求めるため一時駐車しただけで、同年七月一日午前八時四〇分頃本件事故現場に到達していること、右のような勤務は、被告会社では格別異例なことではなく、かかる長距離走行の場合でも、交替運転手を同乗させていないこと、以上の各事実が認められる。右事実からは、被告会社の事業の監督ならびに被告上村の運行管理上の監督につき、運行計画や交替運転手の同乗などになお相当の注意を払つていれば本件事故の発生を未然に防止する機縁にもなりえたのではないかと窺えるもので、本件全証拠によるも、被告会社ならびに被告上村が相当の注意を尽したとする被告らの各主張を認めることはできないのである。よつて、抗弁1、(二)および(三)の主張は採用できない。

四  原告斉藤の損害

1  成立に争いのない甲第三、四号証、原告会社代表者本人尋問の結果によれば、原告斉藤は、本件事故により腹部打撲の傷害を受け、事故のあつた昭和四八年七月一日より同月一一日までは赤穂市民病院で入院加療し、同月一二日より同月一七日までさらに笠岡市の富岡外科医院に入院し、同月一八日より同年八月三一日まで同医院に入院加療し、その間就労することができなかつたことが認められる。右認定に反する証拠はない。

2(一)  成立に争いのない甲第五号証の一、二によれば、原告斉藤の右治療において、赤穂市民病院で五一、一八八円、富岡外科医院で一二、二八〇円、合計六三、四六八円を要したことが認められる。

(二)  原告斉藤が前示のとおり入院を要した一七日間に相当額の雑費支出をなしたことは容易に推認できる。右支出のうち本件事故との相当因果関係がある範囲は一日あたり三〇〇円とみるべきであるから、合計五、一〇〇円の損害発生を認めることができる。これを越える原告らの主張は失当である。

(三)  原告会社代表者本人尋問の結果および同証拠により真正に成立したことが認められる甲第六号証によれば、原告斉藤は、原告会社より給与を得ていたが、右休業期間中はその支給がなかつたこと、原告斉藤の一か月平均給与額は、少くとも原告ら主張の一三〇、九四八円はあつたことが認められ、右事実によれば、原告斉藤には二か月分の休業損害合計二六一、八九六円の損害の発生を認めることができる。

(四)  原告斉藤が右傷害により精神的苦痛を蒙つたことは容易にこれを認めることができる。これに対する慰藉料は金二〇〇、〇〇〇円が相当である。

3  右のとおり、原告斉藤には合計五三〇、四六四円の損害の発生が明らかであるが、原告斉藤が自賠責保険金として三一一、一六八円の支払を受けていることについては当事者間に争いがないので、その残損害は二一九、二九六円になる。

4  そうすると、右金額を訴求するための弁護士費用のうち被告らに負担させるのが相当な金額は二二、〇〇〇円であり、右金額は原告に発生した損害と認めることができる。

5  よつて、原告斉藤の残損害額は二四一、二九六円である。

五  原告会社の損害

1  成立に争いない甲第一六号証、原告会社代表者本人尋間の結果により真正に成立したことが認められる甲第一〇号証、甲第一七号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、本件被害車両は、事故当時、時価四一〇、〇〇〇円相当の財産的価値を有していたが、本件事故による損傷のため修繕不可能な状態になり、これを廃車し、そのスクラツプ売却代金七〇、〇〇〇円を取得していることが認められる。右事実によれば、原告会社の車両損害は三四〇、〇〇〇円であると認められる。もつとも、原告会社代表者本人尋問の結果ならびにこれにより真正に成立したことが認められる甲第八、九号証によれば、被害車両は事故前の昭和四九年五月にエンジン(再生品)のせ替工事を、同年四月に車検のための整備工事をそれぞれうけ、合計二九五、六〇〇円の費用をかけていることが認められるが、これによつて被害車両の価格がどの程度増加するかについては何ら証明がないので、前示のとおりの損害の認定しかなしえない。よつて、この点に関する原告らの主張は失当である。

2  また、原告会社代表者本人尋問の結果、およびこれにより真正に成立したことが認められる甲第一一、一二号証、甲第一七号証によれば、原告会社は、本件事故により、被害車両の代替車を同年八月二〇日に購入するまでの間、被害車両の稼働によつて得られるべき営業収益が得られなかつたこと、被害車両の一日当りの平均運輸収入は一二、一八三円であると認められる。しかし、車両破損により代替車を購入するまでの営業収益を失つた損害の算定においては、通常代替車を購入するのに必要な期間のみが事故と相当因果関係ある損害が発生したというべきであり、右期間については一か月とみるのが相当である。そうであれば、原告会社の営業収益を失つた損害は、三七七、六七三円である。これを越える原告らの主張は失当である。

3  原告会社代表者本人尋問の結果ならびにこれにより真正に成立したことが認められる甲第一七号証、甲第一八号証の一、二によれば、原告会社は、本件事故後、積荷であるタンク積替作業、被害車両の引上げおよび索引搬入の作業に七〇、〇〇〇円を、積荷の代運搬費用として三〇、〇〇〇円を、事故のため破壊した土地の整地費用に四、八五〇円を、それぞれ支出したことが認められる。右はいずれも本件事故と相当因果関係のある損害といえるので、右合計一〇四、八五〇円の損害を認定することができる。

4  したがつて、原告会社には合計八二二、五二三円の損害が生じているので、これを訴求するための弁護士費用としては八三、〇〇〇円が相当である。

5  よつて、原告会社の損害合計額は九〇五、五二三円である。

六  ところで被告らは、原告らの損害額の算定において過失相殺をなすべきである旨主張している。しかしながら、前示二の認定事実のとおり、原告斉藤には事故を回避する措置をとることができなかつたと認められるので、原告斉藤には過失がなく、過失相殺の余地はない。よつて、被告らの右主張は失当である。

七  さらに被告らは、本件事故により被告並川および被告会社が蒙つた損害について、原告らに対する損害賠償請求権があるので、これを相殺した旨主張する。しかし、民法五〇九条によれば、不法行為によつて生じた債務については相殺をなしえないと定めているもので、自賠法三条に基づく損害賠償義務も畢竟不法行為に基づくものであるから、いずれも相殺はなし得ないことは明らかであり、右主張は、それ自体失当である。

八  以上のとおりであるから、原告斉藤は、被告ら各自に対し、前示四、5の損害金残金二四一、二九六円、およびこれより弁護士費用を控除した内金二一九、二九六円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年一一月五日より、弁護士費用二二、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。また原告会社は、前示五、5の損害金九〇五、五二三円、およびこれより弁護士費用を控除した内金八二二、五二三円に対する同様に昭和四九年一一月五日より、弁護士費用八三、〇〇〇円に対する本判決言い渡しの日の翌日より、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司)

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